労働者派遣法は1986年に制定された法律で、正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」と言います。
労働派遣法が制定された当時、派遣スタッフが対象となる業務はまだ13業務しかありませんでした。しかし、その後労働派遣法は改正されたことに伴い、対象業務も拡大。1996年には23もの業務が、派遣スタッフに任せられる業務に含まれました。ところが、上記の業務の中には専門性が求められる業務や危険の伴う業務も内包されていたため、「派遣スタッフが担当するのは適切ではない」という指摘の声が上がりました。そこで、業務の中から「派遣スタッフには任せてはならない禁止業務」を定める運びになったのです。
なお、派遣禁止業務とは「適応除外業務」が正式名称であり、主に特殊性の高い業務が対象となっています。港湾運送業務や建設業務では需要自体がまばらであること、建設業務では雇用関係が曖昧であることも、派遣が禁止されている要因のひとつとされています。
建設業界は労働力の需要は高いものの、就労期間が不定期です。工事のスケジュールは、基本的に依頼者から発注を受けた後、現場を移動するスタイルが主流。工事期間が長期に渡り、1年以上かかるケースも多く見られます。気候や季節による影響をダイレクトに受けるため、スケジュール管理も困難。このようにいつどこでどの程度の労働力が必要か瞬時に把握できないので、建設労働者の派遣は禁止されているのです。
派遣を禁止するのは雇用関係を明確にするためでもあり、建築業が持つ特徴でもあります。
建築業界は全体的に労働者と使用者の関係性が曖昧になりがちで、とりわけ責任者を明らかにする必要があります。雇用関係が曖昧なまま派遣が許可されると、派遣労働者は誰の指示に従えば良いのか分かりません。そこで、建設業界では独自に設けた「建設雇用改善法」に基づき、建設労働者の有料あっせんや送出、受け入れ等を行っています。建設雇用改善法では、派遣労働者の雇用を安定させるために、雇用関係を明確にしつつ労働者の過不足を無くせるよう工夫。独特な風潮のある建設業に合った制度となっています。
長く働ける場を確保するために、労務管理を近代化し雇用環境を安定させることが優先される中、安易に派遣で対応するとその流れに逆行します。安定雇用が重要とされるのに雇用側の都合で派遣労働者をあてがうことは、労働者の地位向上の妨げに。そのような事態を防ぐためにも、建設業界は派遣を禁止しているのです。
下請け業者と責任者の関係性が重層的になっている建築業界。建設業務は専門性が高く、それぞれの知識に優れたプロフェッショナルが協力して作業を行っています。一つの建物を作り上げるためには、基礎工事や足場工事、電気工事など、さまざまな種類の工事が必要。複数の業者が合同で業務を行うケースが多いため責任者が分かりづらく、下請けとの関係性もうやむやになりがちです。現場の管理責任が不明瞭な状態で労働者保護がおろそかになってしまわないよう、派遣は禁止されています。
万が一派遣禁止に違反してしまうと、懲役1年以下、または100万円以下の罰金が処罰として下されます。労働者派遣法は4つの段階に罰則が分かれているのが特徴的であり、派遣禁止に関する違反行為は2番目に重い懲罰です。届け出などを忘れても6カ月以下の懲役、あるいは30万円以下の罰金を支払わなくてはならないほど厳しいもの。なお、違反行為があった際は、派遣労働者を禁止業務に充てた派遣先だけでなく、派遣元の企業にも停止命令が下されることになっています。
建築現場での資材の運搬や組み立て作業は禁止されています。この業務は労働者派遣法の4条で禁止事項として記載されており、建築現場での作業や準備に関する業務が該当します。ビルや家屋を問わず資材運搬や組み立てが禁止されていますが、施工計画を作成したり、呼応邸を管理したりする業務は禁止事項に含まれていません。
派遣労働者は、ビルや家屋などをはじめ道路、河川、空港、鉄道など、開設や修繕を目的とした工事で掘削・埋め立て業務を行ってはけません。
禁止業務に該当するのはコンクリートを合成する作業だけでなく、準備作業も含むすべてが対象です。派遣労働者は建築工事や土木工事現場において、準備作業に携わることも許されていないのです。
派遣労働者には資材や機材を配送することが許可されていません。ただし、禁止事項に該当するのは現場内における配送のみで、現場以外の作業は対象から外れます。そのため工場や倉庫などから資材や機材を配送することは、派遣労働者でも行うことが可能です。
壁や天井、床の塗装・補修作業を派遣労働者に任せるのは、派遣禁止業務に該当します。この禁止事項は厳しく、壁の小さなクラックなど、どんなにわずかな補修作業でも派遣労働者に任せることはできません。
建具類等の固定や撤去作業も派遣禁止業務に入ります。建具とは主に建築物の開口部に取り付ける仕切りのことで、例えば障子やふすま、窓、ドアなどが挙げられます。
建築工事現場では建具類を取り付ける業務がありますが、壁や天井、床にかかわらず、派遣労働者が取り付けてはいけません。なお、建物の解体や修理、改造を理由に建具類を撤去する業務も禁止事項なので、覚えておきましょう。
外壁へ電飾版を付けたり、看板の設置や撤去を行ったりすることも派遣禁止業務に該当します。工事に直接関係ないとしても、派遣労働者が看板を設置することは認められていません。
派遣労働者が配電や配管工事を行ったり、それらに関する機器を設置することは禁止されています。配電工事や配管工事に直接携わっていない場合でも、関連機器の設置を行うことはできません。
建築工事現場や土木工事の現場への、トラックや建築機器などの出入り管理も派遣禁止業務とされています。工事現場出入り口の開閉だけでなく、車両の誘導作業も禁止業務に含まれていることを覚えておきましょう。
現場の整理や清掃、内装仕上げも派遣禁止業務の一つです。工事後の現場でも派遣労働者は、現場を整理したり清掃したりするのは違反行為に該当します。工事とは関連のない資材清掃も禁止業務に含まれているので、注意が必要です。
大型仮設テントや仮設舞台などの設置は、派遣禁止業務に当てはまります。しかし、上記に該当するのは大型のテントを設置する場合であり、簡易テントやパーテーションを設置することは派遣労働者でも可能です。テント内に椅子を搬入したり、大道具や小道具を設置したりする作業も問題なく指示できます。
仮設住宅の組み立ても派遣労働者ができない業務の一つです。災害が発生したときや本設住宅工事を行っている一定期間、仮の住まいとして仮設住宅を利用するとき、派遣労働者は組み立て対応に入ることはできません。他の労働者が行うようにしましょう。
派遣禁止法に含まれている建造物や家屋の解体について、工作物における解体作業だけでなく、建造物や家屋の破壊なども禁止事項に該当します。
建設現場での事務作業は派遣禁止事項ではありません。禁止されているのはあくまで建設現場で実際に作業に従事することであり、事務作業は対象外。ただし、無許可で事務処理など建設業以外の業務を行った場合は、違法になるので注意が必要です。
CADオペレーターも派遣労働者が行える業務の一つです。設計士が考案した形をCADソフトを活用して図面や3Dデータに変換するCADオペレーター。CADオペレーターも事務員と同じ扱いで、直接建設作業に従事するわけではないため、禁止事項に含まれていません。
派遣労働者は施工管理業務を行うことが可能です。施工管理業務は施工計画をイチから作り、工事のスケジューリングや施工の順序・手段・工程などを管理する業務を指しています。建築物の強度や材料を確かめたり、正しい構造で作られているか管理したりする業務は派遣労働者にも任せられます。作業員の安全を管理する業務を任せることも可能です。
派遣労働者でも、専任の主任技術者や監理技術者として働くことができます。一概に現場監督といってもいろいろな形態があり、工程管理や品質管理といった、従事する内容が施工管理業務のみの場合、派遣社員が現場監督になることが可能です。とはいえ、請負業者の直接雇用が求められる場合や、工事現場に配置が必要となる現場監督の場合は別なので気を付けましょう。